特定秘密保護法に反対する牧師の会は5月19日、以下の抗議声明を発表し、内閣総理大臣あてに送付しましたのでお知らせいたします。
内閣総理大臣 安倍 晋三殿
憲法解釈変更による集団的自衛権容認の動きに対する抗議声明
2014年5月19日
特定秘密保護法に反対する牧師の会
共同代表 朝岡勝(徳丸町キリスト教会 牧師)
安海和宣(東京めぐみ教会 牧師)
5月15日、安倍首相は私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(いわゆる「安保法制懇)の報告書提出を受けて記者会見を開き、歴代の内閣が憲法上禁止されているとしてきた「集団的自衛権」を容認する憲法解釈変更の方針を明らかにしました。
私たちは昨年12月6日の特定秘密保護法の成立以来、同法に反対の意志を表明し続けて来ましたが、それは同法のみの問題でなく、この間の一連の政治的文脈に重大な懸念を抱いてきたからです。すなわち国家安全保障会議の設置、特定秘密保護法の制定、武器輸出三原則の緩和、教育行政の見直しという名目での教育現場や教科書選択への露骨な政治介入、改憲手続き法の改正、そして今般の憲法解釈変更による集団的自衛権容認、さらには今後予想される改憲への流れです。これらの一連の動きの中で憂うのは、個別の事柄もさることながら、それらを取り扱う手法が民主主義的な法治国家として為政者が守るべきルールを無視して、特定の価値観に基づいて恣意的に行われていることです。一内閣が憲法解釈の積み上げを否定することは立憲主義の崩壊を意味します。
今回の集団的自衛権容認の方針表明は、明らかに憲法9条が定める平和主義を否定するものです。しかも自民党改憲草案によれば自衛隊は国防軍として位置づけられることになり、多くの若者が戦地で敵を殺し、敵に殺され、あるいは戦地における悲惨な経験でその生涯を通して苦しみ続けることになります。また戦死者を国が慰霊・顕彰する「靖国」の思想の復古によって憲法20条の定める政教分離・信教の自由の原則も崩れ去ります。さらに今も世界の紛争地で平和構築・人道支援に従事する多くの民間人が培ってきた信頼関係が壊され、彼らもまた危険にさらされることになりかねません。私たちの国は憲法9条があることで、現在の国際社会の中にあって信頼を得て来たのであり、憲法9条に示された平和の理想を生かすべく国の内外に働きかけることこそが私たちの責任です。
かつて戦時体制下に軍機保護法や治安団体法、治安維持法が整備され、思想信条、信教の自由、集会結社、表現の自由が封じられていったように、今の社会もまた主権者である国民の基本的人権が脅かされていくという憂いを抱かざるを得ません。
私たち「特定秘密保護法に反対する牧師の会」は、「平和をつくる者は幸い」(新約聖書 マタイによる福音書5章9節)との教えに従って、この国が戦争へと進む道を開くことになる集団的自衛権容認の動きに反対し、ここに抗議の意志をあらわします。